禁煙地区拡大でざわつくフランス

「タバコは単なるタバコではなく、誘惑であり、反抗でもある」という映画的なメッセージを持っていたフランス。映画の中の美男美女が、ときにはカッコよく、ときには優雅にタバコをふかすシーンを頭にパッと思い浮かべる方も多いでしょう。

© Image by Ri Butov from Pixabay

しかし今、現実世界のフランスでそんなシーンを再現しようものなら、最高135ユーロの罰金が科せられるとのニュースが流れました(2025年7月時点で違反に対する罰金については未定)。

長きにわたって、タバコを美化するような傾向のあったフランスで、ついに史上最大規模の喫煙禁止令を発令か・・・! 喫煙はフランスのアイデンティティ、ファッション、そして映画を象徴するものであったため、この新たな措置は静かなフランス革命のような効果をもたらすという人さえいるほどです(レストランやナイトクラブなどの施設内での喫煙は2008年より禁止)。

がん撲滅連盟(Ligue Contre le Cancer)によると、2015年から2019年にかけて制作されたフランス映画の90%以上に喫煙シーンが含まれており、これはハリウッド映画の2倍以上に当たるとのこと。フランス映画1本あたりの画面上での喫煙シーンは平均約3分で、これは30秒のテレビCM6本分に相当します。

古くは、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ(À Bout de Souffle/Breathless)』でベルモンドが演じた反抗的な喫煙者は、世界中で反抗する若者の象徴となりました。『素直な悪女(Et Dieu… Créa la Femme)』でバルドーが漂わせたタバコの煙は、官能性を象徴しています。このような映画の喫煙シーンは人々に大きな影響を与えました。

こうした美化には得てして代償が伴うもの。フランスの保健当局によると、国内だけでも毎年約7万5,000人がタバコ関連の合併病気で亡くなっているそうで、その影響もあるのか、最近の世論調査によるとフランス人の10人中6人が公共の場での喫煙禁止に賛成し、フランス薬物中毒行動監視機構(French Observatory of Drugs and Addictive Behaviours)による調査結果では、若者のタバコ消費量は減少傾向にあることがわかりました。しかし、喫煙の習慣は依然として根強く残っており、若者や都会に住む人たちの間ではそれが特に顕著です。

© Image by Daniela Elena Tentis from Pixabay

現実的な受け入れと懐古趣味的な反抗

ヴォートラン大臣が発表した新たな規制は、ビーチ、公園、庭園、遊び場、スタジアム、学校の入り口、バス停など、子どもたちが集まる可能性のある屋外の公共スペースのほぼすべてを禁煙とするものですが、パリで最もトレンディーなマレ地区の優雅な通りでの喫煙禁止に対する反応は、実にさまざまなようです。

「子どもたちには喫煙がロマンチックなものだと思ってほしくないわね」と、カフェにいた34歳のクレマンスさん。「確かにバルドーはタバコをセクシーなものにしました。でも当時の彼女は今日の肺がんの脅威など知りもしなかったでしょう。」

その一方で、カフェの隣で古着屋を営む53歳のリュックさんは、この禁止令をフランス文化への攻撃だと捉えているようです。彼が「喫煙は常にフランス文化の一部だった。タバコを奪われたら、残るのはケール・スムージーか?」と冗談めかして言うと、向かいに座っていた72歳のジャンヌさんは、「初めてタバコを吸ったのはジャンヌ・モローの影響だったわ。彼女の声はスモーキーで、セクシーで、そして生き生きとしていたの。あのような声を欲しいと思わない人がいるかしら?」とリュックさんに同意しているようです。

パリのヴォージュ広場にいたアート系の男子学生は、今のところは規制の対象外となっている電子タバコを握りしめ、「電子タバコは妥協案なのかもしれないな。少しセクシーさには欠けるけど、シワへの影響も小さそうだ。」と諦めムードのようでした。

ヨーロッパ全土に広がる禁煙の動き

このように意見の分かれるフランスの新法ですが、同様の動きはヨーロッパ全体で見られます。多くの国々で、既に公共空間における喫煙規制が強化されています。

スウェーデンは、2019年にレストランのテラス席やバス停、学校の校庭付近での喫煙を禁止しました。

イギリスでは、科学者らが既に市場に出回っている規制されていない10種類の電子タバコ製品に、鉛、銅、カドミウムなどの「高濃度で、しばしば警戒すべきレベルの危険金属」が含まれていることを発見。また、子どもたちがフルーツ風味の電子タバコの中毒になっているとの恐ろしい実態がデータで明らかになったことを受け、2025年6月1日より使い捨て電子タバコの販売を禁止しました。しかし、使い捨て電子タバコが市場撤退をすれば、何百万人もの国民がニコチンを求めて闇市場に目を向けるだろうと専門家らは警告しています。使い捨てか否かにかかわらず、将来的に電子タバコが市場から消えると、元喫煙者が紙巻きタバコに戻ってしまうという懸念もあります。

スペインのガルシア保健大臣も、スペイン全土のバス停、業務用車両、大学のキャンパス、公共プール、屋外ナイトクラブなどまで喫煙禁止の対象を拡大することを目指しているとのこと。

イタリアの金融・ファッションの中心地であるミラノでも、すでに屋外および公共エリアでの喫煙が禁止されています。この条例は、2021年に始まった一連の禁止措置の中で最も厳しい拡大ということです。

タバコを諸悪の根源と捉えるか、合法的に販売されている限り吸う吸わないは個人の自由と主張するか・・・なかなか一筋縄ではいかない問題のようです。

参照記事:
Euro News (France to ban smoking in schools, parks, beaches to protect children)
Mail Online (France BANS smoking in nearly all outdoor spaces)

https://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2025/07/03_2507_01-stockking-top.jpghttps://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2025/07/03_2507_01-stockking-top-150x150.jpgLiE 編集部禁煙地区拡大でざわつくフランス 「タバコは単なるタバコではなく、誘惑であり、反抗でもある」という映画的なメッセージを持っていたフランス。映画の中の美男美女が、ときにはカッコよく、ときには優雅にタバコをふかすシーンを頭にパッと思い浮かべる方も多いでしょう。 © Image by Ri Butov from Pixabay しかし今、現実世界のフランスでそんなシーンを再現しようものなら、最高135ユーロの罰金が科せられるとのニュースが流れました(2025年7月時点で違反に対する罰金については未定)。 長きにわたって、タバコを美化するような傾向のあったフランスで、ついに史上最大規模の喫煙禁止令を発令か・・・! 喫煙はフランスのアイデンティティ、ファッション、そして映画を象徴するものであったため、この新たな措置は静かなフランス革命のような効果をもたらすという人さえいるほどです(レストランやナイトクラブなどの施設内での喫煙は2008年より禁止)。 がん撲滅連盟(Ligue Contre le Cancer)によると、2015年から2019年にかけて制作されたフランス映画の90%以上に喫煙シーンが含まれており、これはハリウッド映画の2倍以上に当たるとのこと。フランス映画1本あたりの画面上での喫煙シーンは平均約3分で、これは30秒のテレビCM6本分に相当します。 古くは、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ(À Bout de Souffle/Breathless)』でベルモンドが演じた反抗的な喫煙者は、世界中で反抗する若者の象徴となりました。『素直な悪女(Et Dieu... Créa la Femme)』でバルドーが漂わせたタバコの煙は、官能性を象徴しています。このような映画の喫煙シーンは人々に大きな影響を与えました。 こうした美化には得てして代償が伴うもの。フランスの保健当局によると、国内だけでも毎年約7万5,000人がタバコ関連の合併病気で亡くなっているそうで、その影響もあるのか、最近の世論調査によるとフランス人の10人中6人が公共の場での喫煙禁止に賛成し、フランス薬物中毒行動監視機構(French Observatory of Drugs and Addictive Behaviours)による調査結果では、若者のタバコ消費量は減少傾向にあることがわかりました。しかし、喫煙の習慣は依然として根強く残っており、若者や都会に住む人たちの間ではそれが特に顕著です。 © Image by Daniela Elena Tentis from Pixabay 現実的な受け入れと懐古趣味的な反抗 ヴォートラン大臣が発表した新たな規制は、ビーチ、公園、庭園、遊び場、スタジアム、学校の入り口、バス停など、子どもたちが集まる可能性のある屋外の公共スペースのほぼすべてを禁煙とするものですが、パリで最もトレンディーなマレ地区の優雅な通りでの喫煙禁止に対する反応は、実にさまざまなようです。 「子どもたちには喫煙がロマンチックなものだと思ってほしくないわね」と、カフェにいた34歳のクレマンスさん。「確かにバルドーはタバコをセクシーなものにしました。でも当時の彼女は今日の肺がんの脅威など知りもしなかったでしょう。」 その一方で、カフェの隣で古着屋を営む53歳のリュックさんは、この禁止令をフランス文化への攻撃だと捉えているようです。彼が「喫煙は常にフランス文化の一部だった。タバコを奪われたら、残るのはケール・スムージーか?」と冗談めかして言うと、向かいに座っていた72歳のジャンヌさんは、「初めてタバコを吸ったのはジャンヌ・モローの影響だったわ。彼女の声はスモーキーで、セクシーで、そして生き生きとしていたの。あのような声を欲しいと思わない人がいるかしら?」とリュックさんに同意しているようです。 パリのヴォージュ広場にいたアート系の男子学生は、今のところは規制の対象外となっている電子タバコを握りしめ、「電子タバコは妥協案なのかもしれないな。少しセクシーさには欠けるけど、シワへの影響も小さそうだ。」と諦めムードのようでした。 ヨーロッパ全土に広がる禁煙の動き このように意見の分かれるフランスの新法ですが、同様の動きはヨーロッパ全体で見られます。多くの国々で、既に公共空間における喫煙規制が強化されています。 スウェーデンは、2019年にレストランのテラス席やバス停、学校の校庭付近での喫煙を禁止しました。 イギリスでは、科学者らが既に市場に出回っている規制されていない10種類の電子タバコ製品に、鉛、銅、カドミウムなどの「高濃度で、しばしば警戒すべきレベルの危険金属」が含まれていることを発見。また、子どもたちがフルーツ風味の電子タバコの中毒になっているとの恐ろしい実態がデータで明らかになったことを受け、2025年6月1日より使い捨て電子タバコの販売を禁止しました。しかし、使い捨て電子タバコが市場撤退をすれば、何百万人もの国民がニコチンを求めて闇市場に目を向けるだろうと専門家らは警告しています。使い捨てか否かにかかわらず、将来的に電子タバコが市場から消えると、元喫煙者が紙巻きタバコに戻ってしまうという懸念もあります。 スペインのガルシア保健大臣も、スペイン全土のバス停、業務用車両、大学のキャンパス、公共プール、屋外ナイトクラブなどまで喫煙禁止の対象を拡大することを目指しているとのこと。 イタリアの金融・ファッションの中心地であるミラノでも、すでに屋外および公共エリアでの喫煙が禁止されています。この条例は、2021年に始まった一連の禁止措置の中で最も厳しい拡大ということです。 タバコを諸悪の根源と捉えるか、合法的に販売されている限り吸う吸わないは個人の自由と主張するか・・・なかなか一筋縄ではいかない問題のようです。 参照記事: Euro News (France to ban smoking in schools, parks, beaches to protect children) Mail Online (France BANS smoking in nearly...