アイルランドの教育情報
アイルランドの教育システム
年齢別学校の種類
アイルランドの教育制度は、小学校(Primary School)と中等後教育学校(Post-Primary School/Secondary School)で構成され、入学枠は、各校の入学方針と入学通知に基づいて定められています。保護者には、6歳から16歳まで(または中等教育後3年間)の教育を修了するまで最低限の教育を受けさせる義務があります。
中等教育後は、多くの生徒が高等教育機関(Further Education)や高等教育機関(Third-level Education)に進学します。私立学校を除き、教育費はすべてのレベルにおいて国費によって賄われています。
学齢前の教育
アイルランドの幼児保育・教育制度(Early Childhood Care and Education/ECCE)は、就学前の子どもに無料の幼児保育・教育を提供しています。ECCE以外にも民間の保育サービスがあり、全国保育制度(National Childcare Scheme/NCS)は、保護者が民間保育の費用を負担できるよう、財政支援を提供しています。
教育青少年省(Department of Education and Youth)は、リスクのある子どもを対象とした就学前教育プログラムにも資金を提供しています。
初等教育
子どもは6歳になるまで学校に通う必要はありませんが、通常は5歳になると小学校に入学します。新学期の始まりは9月。一般的に、アイルランド語/ゲール語(Gaelic)を学ぶことが義務付けられていますが、免除されるケースもあります。
中等後教育
中等後教育は、さまざまな種類の中等後学校によって提供されます。中等後教育には3年教育の「ジュニアサイクル(Junior Cycle)」と、2年ないしは3年教育の「シニアサイクル(Senior Cycle)」の2つの段階があり、それぞれ12〜15歳、16歳〜18歳ぐらいの生徒が学んでいます。
ジュニアサイクルと試験
ジュニアサイクルは通常12歳から開始し、3年後にジュニアサイクル達成度プロファイル(Junior Cycle Profile of Achievement/JCPA)試験を受験します。
シニアサイクルと試験
2年間、移行年(Transition Year/TY)を含めると3年間のシニアサイクル。移行年では、生徒は幅広い教育指導と就労体験を積むことができます。シニアサイクルの最後の2年間では、国家試験に合格するための下記の3つのプログラムのいずれかを受講します。
① エスタブリッシュド・リービング・サーティフィケート(Established Leaving Certificate)
卒業後に大学、技術研究所、教育大学への入学資格を割り当てる主な基準となります。
② リービング・サーティフィケート・ヴォケーショナル・プログラム(Leaving Certificate Vocational Programme)
技術的な科目が中心で、職業に重点を置いた追加モジュールが含まれています。
③ リービング・サーティフィケート・アプライド(Leaving Certificate Applied)
適切な学習体験を通して、社会人として社会で活躍する準備を整えることを目的とした、実務または職業訓練プログラムを受講したい学生のためのプログラム。高等教育機関への直接入学資格としては認められていませんが、リービング・サーティフィケート取得後のコース(Post-Leaving Certificate Courses)を受講する機会が得られます。
継続教育と成人教育
中等教育修了後、多くの生徒は継続教育または第三レベルの教育に進みます。国家資格枠組み(National Framework of Qualifications/NFQ)には10段階の教育レベルがあり、教育制度全体で利用可能なさまざまな基準と教育レベルを比較することができます。
教育訓練委員会(Education and Training Boards/ETB)のプログラム
ETBは、全国で成人向け、あるいは継続教育・訓練のためのさまざまなプログラムを実施しており、その中には卒業証明書(Post-Leaving Certificate/PLC)コースも含まれます。PLCは、技術教育と実践教育に加え、高等教育および第三次レベルの教育への進学の道も提供しています。その他のプログラムには、職業訓練機会制度/成人のためのセカンドチャンス教育(Vocational Training Opportunities Scheme)、早期退学者のためのユースリーチ(Youthreach)、その他の識字教育および基礎教育、そして自己資金による夜間成人向けプログラムなどがあります。
見習い制度(Apprenticeships)
見習い制度は、職場実習(On-the-Job Training/OJT)と職場外教育(Off-the Job Education/OFF-JT)の両方を提供しています。配管工や電気工学などの伝統的な職人技に加え、情報通信技術(Information and Communication Technology/ICT)、金融、ソフトウェア開発、ホスピタリティといった新しい分野でもこの制度が提供されています。応募資格は16歳以上で、ジュニアサイクル試験または同等の試験で最低限の成績を取得していることが求められる場合があります。
スプリングボード+(Springboard+)
Springboard+は、失業者、あるいはかつて自営業やフリーターで職場復帰を希望する人を対象にした、無料*の高等教育コース。コースは通常、NFQレベル6から9が提供される1年間のパートタイム授業です。コースには、ICT、医療技術、サイバーセキュリティ、持続可能エネルギーなどがあります。 *就労中の場合には、コース費用の一部負担を求められることもあります。
高等教育
高等教育は、国から多額の資金提供を受けている、主に下記のセクターで構成されています。
大学セクター
一般的に自治権を有し、学士、修士、博士レベルの学位プログラムを提供
技術セクター
技術大学(Technological Universities/TUs)と工科大学(Institutes of Technology/ITs)が含まれ、ビジネス、科学、工学、言語学、音楽などの分野で、資格取得、ディプロマ取得、学位取得のための教育訓練プログラムを提供
教育大学
小学校教員の養成に特化した大学。中等教育以降の教員の養成は、多くの高等教育機関で提供。
※2023年9月以降、学生は継続教育(Higher Education)の学位プログラムを開始し、高等教育に進むことができるようになりました。
アイルランドの学校系統図:
参考ウェブサイト:Citizens Information(https://www.citizensinformation.ie/en/)
私立校
アイルランドには約50校の私立中等学校があり、およそ26,000人の生徒(2024年時点)が通学しています。政府はすべての私立学校に補助金を支給しており、その総額は年間約1億1,000万ユーロといわれています。補助金のおかげで、これらの私立校は隣国イギリス私立学校と比較すると授業料を低く抑えられています。公的資金は、私立学校の教師と特別支援教育の補助員の大部分の給与に充てられます。 ※シン・フェイン党と労働党は、彼らが政権を握った場合には私立学校への補助金を削減すると公約しています。
私立中等学校のほとんどはダブリン周辺にあります。通学する場合の学費は年間約4,000ユーロから10,000ユーロ以上(2024年)ですが、寄宿学校の場合には当然ながらそれよりも高くなります。
児童手当(Child Benefit)
児童手当は、16歳未満の子どもの保護者に毎月支給されるもの。2024年12月1日以降に出生または養子縁組された赤ちゃんには、最初の月の児童手当に新生児手当も支給されます。児童手当の支払日は毎月第 1 火曜日で、税金はかかりません。なお、16歳〜18歳であっても、以下の条件に該当する場合には手当を受け取ることができます。
・フルタイム教育Äb0*またはフルタイムの訓練を受けている
・障害があり、自立できない
*フルタイム教育には、「初等教育および中等教育後教育」「高等教育および訓練コース」「高等教育機関(一部例外あり)」が含まれます。
児童手当の受取資格
社会保障省(Department of Social Protection)は、児童の母親または継母に児童手当を支給します。ただし、子どもが母親または継母と同居していない場合には、子どもの父親または継父でも手当を受け取ることができます。同様に、両親と同居していない(または両親から扶養を受けていない)子どもを養育している保護者は、児童手当を受け取ることができます。両親が別居しているなどの理由で、2つの世帯に居住している子どもの場合には、ほとんどの時間を子どもと一緒に過ごしている側の親に児童手当が支給されますが、双方が同等の時間を過ごしている場合は、母親が児童手当を受け取ります。
児童手当の受給条件
児童手当を受給するには、アイルランドに居住し、常居所要件(Habitual Residence Condition/HRC)*を満たし、子どもが16歳未満、または以下の条件を満たしている必要があります(子どもが拘留施設に入所している場合には、児童手当は請求できません)。 ・16歳、17歳、または18歳で、フルタイムの教育または訓練を受けている ・16歳、17歳、または18歳で、障がいがあり、自立して生活できない *「常居所」という用語はアイルランド法では定義されていません。アイルランドとの密接なつながりが証明されていることを意味しますが、実際には、永住性(Permanence)、つまり一定期間アイルランドに滞在し、予見可能な将来も滞在する予定であるというケースも含まれます。もちろん、それが確実に証明できることが必要です。
アイルランド国籍は持たないが、EU加盟国やEEA加盟国以外の国籍を持つ人の児童手当
アイルランドで就労しているEUまたはEEA市民(雇用者または自営業者)は、自動的に常居所要件(HRC)を満たしていることになります。就労はしていたものの失業し、求職者手当を受給している場合も同様です。子どもが保護者とは異なるEUまたはEEA加盟国に居住している場合は、子どもの居住国で受給資格のある家族手当(Family Benefit)も申請しましょう。
EU加盟国やEEA加盟国以外の国籍の児童手当
常居所要件(HRC)を満たしている必要があります。子どもがアイルランド国籍である必要はありませんが、居住国はアイルランドでなければなりません。
児童手当額
収入や社会保険(Pay Related Social Insurance/PRSI)の記録に関係なく、子ども1人につき月額140ユーロを誰でも受け取ることができます。
双子の場合は、1人につき通常の1.5倍の手当を、三つ子やその他の多胎出産の場合は、1人につき通常の2倍の児童手当が支給されます。
児童手当の申請方法
アイルランドで生まれた赤ちゃんは、3カ月以内に出生登録を行います。登録すると、社会保障省(Department of Social Protection/DSP)は、赤ちゃんに個人公共サービス番号(PPS)を付与し、児童手当の申請手続きを開始します。
先に生まれた子どもの児童手当を請求しておらず、3カ月以内に出産を登録する場合は、DSPの児童手当課から、一部記入済みの児童手当申請書CB1(PDF)が送付されます。申請書には、生まれたばかりの赤ちゃんのオンライン申請方法が記載されています。 ※オンラインで申請できるのは、DSPから依頼があった場合のみ
既に他の子どもの児童手当を請求しているおり、3カ月以内に出産を登録する場合は、生まれたばかりの赤ちゃんも児童手当の請求対象に追加されます(DSPから、支給開始日を知らせする書面が届きます)。
子どもがアイルランドで生まれていない、あるいは生後3カ月以内に出生登録をしていない場合には、児童手当申請書CB1(PDF)をダウンロードし、必要事項を記入して児童手当課に提出しましょう。
日系教育機関
首都ダブリン、ダンドラム(Dundrum)地区に位置するダブリン日本子女補習校(Dublin School for Japanese Children/DSJC)では、アイルランドに在住する義務教育学齢(小学生と中学生)に達した日本人児童生徒に対し、日本の義務教育レベルに必要な補習教育を施すことを目的として1977年に設立されました。授業は毎週土曜日に行われます。
また、満3歳〜6歳の幼児を対象とした「さくら幼稚園」も併設しており、補習校と同様土曜日に開園しています。
住所は公表されていませんので、興味のある方は同校のウェブサイト「お問い合わせ/Contact」ページのフォームを使って問い合わせてみましょう。
学校生活
制服
アイルランドでは、ダブリン(Dublin)やリムリック(Limerick)などの都市部の公立学校のほとんどで制服着用が義務付けられています。その多くは、シャツ、ブレザー、ネクタイに、男子はズボン、女子はスカートという組み合わせで、冬にはニットも着用します。衣服に関する校則も日本ほど厳しくないため、生徒はパーカーやジャージを着るなど個性的な着こなしや自由な髪型も楽しんでいるようです。
近年人気の高まっている教育慈善団体「エデュケート・トゥギャザー(Educate Together)」が運営する学校では、保護者、教師、生徒が共に服装規程を策定しているようです。
制服の防寒対策について、アイルランドは冬場の強風&雨と寒天気に恵まれないため、厚手の暖かいニットや指定のウインドブレーカーは撥水で風を通さない高性能、体操服も下裏起毛で保温性がある寒さに強い素材を使用しています。
履物に関しては、多くの学校では男女ともにローファーを着用していますが、ローファーの着用は必ずしも義務付けられているわけではなく、その他の指定の履物を着用している学校もあり、学校や地域によって異なります。
ランチ
アイルランドの学校給食の内容は、国の食文化を反映した伝統的な料理と国際的かつ現在的な料理がミックスされています。
伝統的な料理の例としては、ラム肉または牛肉、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを使った、ボリュームたっぷりの「アイリッシュシチュー(Irish stew)」や、ソーセージとマッシュポテトに野菜の付け合わせを添えた「バンガーズ・アンド・マッシュ(Bangers and mash)」などがあります。
これらの料理には、ニンジン、グリーンピース、キャベツなどの野菜の付け合わせが添えられることが多く、全粒粉パンや日本のホテルの朝食ビュッフェでよく見かける、ヨーロッパで食べられているクラストロールパン(crust bread)が添えられることもあります。
学校によっては、サンドイッチやヨーグルトなどのランチや軽食を提供したり、サラダバーやサンドイッチバーを設け、生徒が自分で好きな組み合わせのランチを作るようにしているところも。またデザートとして、新鮮なフルーツ、チーズとクラッカー、ブラウニーやクッキーなどの手作りのお菓子が出されることもあります。
文化的多様性の高まりを反映して、多くの学校で各国料理が提供されることも増えてきました。人気のメニューはピザや中華風の炒め物などですが、これらの料理は、アイルランド人の好みに合わせてアレンジされ、伝統的なアイルランド料理と共に提供されることもあります。
学校給食の最新動向
近年、アイルランドでは健康的な食事と栄養への関心が高まっており、多くの学校では、サラダバーの提供や料理教室の開催など、健康的な食事を促進するための取り組みを導入しています。地元の農家や生産者を支援するだけでなく、子どもたちが可能な限り新鮮で高品質な食事ができるように、地元産の新鮮な食材の使用がますます重視されています。
世界的なトレンドに沿って、植物性食品への関心も高まっており、多くの学校ではベジタリアンやビーガン向けのメニューも提供しています。また、加工食品削減の重要性が認識されつつあり、フルーツ、野菜、全粒穀物といった未加工のホールフードが使用されることが増えています。
その一方で、食物アレルギーと不耐症への懸念が高まっており、食事制限のある生徒への対応策が講じられています。よく見られる症状にはグルテン不耐症やナッツアレルギーがありますが、グルテンフリー食品の選択肢を提供したり、ナッツ類を使用しない方針を導入している学校もあります。
また、多くの学校学校には、昼食を購入できるカフェテリアや食堂があり、テーブルと椅子が置かれた広い部屋で、座って食事をとることができます。
カフェテリアは通常、食事の準備と提供を担当するスタッフチームによって運営される他、、食材の発注や予算管理など、学校給食プログラムの管理も担当していることもあります。
学校給食プログラムは、生徒に栄養価が高く手頃な価格の食事を提供するためのプログラムです。通常、学校またはケータリング会社によって運営されており、経済状況にかかわらず、すべての生徒が健康的な食事を摂れるように設計され、政府から補助金を受けている学校も多いようです。
このプログラムが国の教育制度において重要な部分と見なされているのは、生徒が十分な栄養を摂り、勉強に集中できるようにするだけでなく、社会との交流を深め、テーブルマナーやコミュニケーションといった重要なライフスキルを身につける機会にもなるためです。
多くの学校では、独自の健康的な食生活に関する包括的な方針やプログラムも実施し、これには健康的なメニューの選択肢の提供、運動の促進、栄養の重要性に関する生徒への教育などが含まれます。一部の学校には、「健康的な食事」チームがあり、健康的な食生活の促進と、それを必要とする生徒へのサポートを担当しています。
学校によっては、保護者会や学校の集まりなど、他のイベントにもカフェテリアが利用されることもあります。
給食やカフェテリアの利用の他、弁当を持参する生徒も多く、特別な食事制限や好みがある生徒に人気の選択肢です。より健康的で費用対効果の高い選択肢となるため、弁当の持参を奨励している学校もあります。学校によっては、「ランチルーム」や「ダイニングホール」を設けています。
教科書
アイルランドの学校では、小学校や特別支援学級に通う児童から15歳の生徒まで、教科書が無料で提供されます。2025/26年度からは15歳から19歳のシニアサイクルの生徒にも適用されます。教科書は学年末または退学する際に返却し、再利用できるよう、良好な状態に保管する必要があります。主要な教材には、コピーブック、ジャーナル、電卓、辞書などの他、学校によっては少額の教材レンタル料を払わなければならない場合があります。追加の教材を購入する必要がある場合は、学校から伝えられます。
宿題
アイルランドの学校では、宿題は一般的に子どもの発達に有益であるとされるため、、授業で既に学習した内容を復習・強化し、理解度を測り、自立した学習と自制心を育む機会と認識されています。宿題は通常、週の特定の曜日に与えられ、頻度はクラスによって異なります。学校によっては、褒美として「宿題休み」を設けているところもあります。宿題の内容は有意義なもので、量よりも質を重視し、必要に応じて工夫が凝らされます。宿題は家庭と学校をつなぐものであり、保護者の子様の宿題への積極的なサポートが推奨されています。
帰国にあたって
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