スペインの健康情報
医療システム・医療保険
スペインには 公的医療制度(Sistema Nacional de Salud/SNS)が整っており、基本的に全国民と合法的な居住者は無料または低額で医療サービスを受けることができます。運営は各自治州に委ねられており、地域ごとに病院や診療所の運営主体が異なりますが、制度としては全国で統一されています。
公的医療制度(Sistema Nacional de Salud/SNS)
SNSはすべての国民と合法的な居住者に対して、原則無料で医療を提供しています。制度の財源は主に税金であり、利用者は診察、入院、手術といった基本的な医療サービスを費用負担なしで受けることができます。ただし、処方薬については一部自己負担が必要で、負担割合は年齢や所得に応じて0〜60%の範囲で設定されています。
利用者は、まず自宅近くの 地域診療所(Centro de Salud) に登録し、かかりつけ医/家庭医(médico de cabecera)の診察を受ける仕組みです。専門医や大病院での治療が必要な場合は、この家庭医/かかりつけ医から紹介を受ける流れになります。救急医療についてはこの限りではなく、直接病院で診療を受けることも可能です。
対象者はスペイン国民だけでなく、EU加盟国からの居住者や、労働許可や居住許可を持つ外国人も含まれます。さらに、不法滞在者であっても、緊急医療、妊娠・出産、小児医療については無料で提供される場合があります。
この制度は、地域ごとに医療行政の権限が委譲されているのが特徴で、カタルーニャ州やバスク州など各自治州が医療サービスの運営を担っています。
民間医療保険(seguro privado de salud)
スペインの民間医療保険(seguro privado de salud)は、SNSを補完する形で利用される保険です。公的医療は原則無料ですが、専門医や検査の待ち時間が長くなる場合があり、民間保険に加入することでこれを避けることができます。民間保険では、私立病院やクリニックを自由に選べ、専門医への迅速なアクセスや英語対応の医師、個室入院など、利便性と快適さが向上します。
加入対象はスペイン国民、長期滞在者、外国人居住者のほか、企業の福利厚生として従業員が加入する場合もあります。保険料は年齢や保障内容により変動し、月額50〜200ユーロ程度が一般的です。加入には健康状態の申告や場合によっては健康診断が必要で、既往症や慢性疾患は保障対象外となる場合があります。
民間医療保険は公的医療と併用することが前提であり、完全に公的医療を代替するものではありません。しかし、短期間で専門医を受診したい場合や、快適な医療環境を希望する場合には有効な手段となります。
よく知られた医療保険会社には下記のものがあります。
SegurCaixa Adeslas
Sanitas
ASISA
緊急時の対応
緊急医療を受ける場合、基本的には 電話112または救急病院への直接搬送が推奨されています。112はEU共通の緊急番号で、警察・消防・救急すべてに対応しており、生命の危険がある場合や重篤な症状がある場合に利用されます。救急車(ambulancia)が自宅や現場まで派遣され、必要に応じて救急病院に搬送されます。SNS加入者であれば、救急搬送や入院、手術も原則無料で受けられます。
緊急でない症状の場合は、まず居住地の 地域診療所(Centro de Salud) に登録した家庭医/かかりつけ医(médico de cabecera)を受診するのが基本ですが、生命の危険がある場合や急激な症状の場合は、紹介状なしで救急病院を直接利用できます。受診時には、パスポートや健康保険カード(tarjeta sanitaria)を持参すると手続きがスムーズです。
このように、スペインの公的医療では、緊急時には迅速に救急サービスを利用できる体制が整っており、SNS加入者であれば費用の心配なく診療を受けることが可能です。
かかりやすい病気、感染症、その他
スペインでは、地中海性気候や生活環境の影響により、いくつかの病気や感染症に注意が必要です。まず、季節性の呼吸器感染症として、風邪やインフルエンザが冬季に流行します。都市部では人が多く集まる場所で感染が広がりやすいため、手洗いやマスクなどの基本的な予防が推奨されます。
また、食中毒や消化器系の感染症も時々報告されます。さらに、春から夏にかけては花粉症が一般的で、特に芝花粉(grass pollen)で悩む人が多くいます。薬局で抗アレルギー薬を購入できますが、症状が長引く場合は医師に相談することが望ましいです。
乳児や小児では、発熱や頭痛、意識障害を伴う感染症が発生することがあります。保育園や学校でのクラスターも報告されているため、予防接種を受けることが重要です。成人では生活習慣病(肥満、糖尿病、高血圧)も増加しており、定期的な健康チェックが推奨されます。
予防接種
スペインでは、SNSの一環として、乳児から成人まで幅広い年齢層に対して予防接種が提供されています。特に乳児や小児は、麻疹、風疹、水痘、百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ、ヒブ(インフルエンザ菌b型)などの定期接種が推奨されており、これらはSNSを通じて無償で受けることが可能です。また、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンは、高齢者や持病を持つ人、医療従事者などのリスク群に対して優先的に接種が行われています。
長期滞在者や外国人も、必要に応じて未接種のワクチンをSNSまたは認定クリニックで受けることができます。日本で定期予防接種を済ませている場合でも、スペインの接種スケジュールに従い、不足分を補うことが推奨されます。予防接種は感染症の発生やクラスターを防ぐ上で非常に重要であり、保育園・学校などの集団生活において特に効果を発揮します。
歯科治療
スペインでは歯科治療は主に 民間(privado)で提供されており、SNSでは成人の歯科治療は原則対象外となります。ただし、乳幼児や特定のリスク群(重度障害者など)には一部公的支援がある場合があります。そのため、成人はほとんどの場合、民間の歯科医院にかかることになります。
民間歯科医院では、一般歯科(虫歯治療、歯石除去)、口腔外科、矯正歯科、インプラント、審美歯科など幅広い治療が受けられます。治療費は内容や医院によって大きく異なり、一般的に虫歯治療は30〜100ユーロ程度、インプラントや矯正は数百〜数千ユーロに及ぶことがあります。
多くの民間医療保険(Adeslas、Sanitas、ASISAなど)では、歯科治療や定期検診のカバーがオプションとして用意されており、保険に加入していれば自己負担を軽減できます。また、都市部では英語対応や外国人向けサービスを提供する歯科医院も多く、予約もオンラインで簡単に行える場合があります。
視力矯正
スペインでは視力矯正は 民間の眼科クリニックや眼鏡店、コンタクトレンズ専門店 で提供されるのが一般的です。SNSでも眼科診察は受けられますが、眼鏡やコンタクトレンズの処方・購入は原則として自己負担となります。そのため、多くの人は民間で視力検査を受け、必要に応じて眼鏡やコンタクトレンズを購入しています。
視力矯正の方法としては、まず 眼科医(optometrista/oftalmólogo)による視力検査 を受け、近視・遠視・乱視・老眼などの診断を行います。その後、処方箋に基づき眼鏡店やオンラインショップで眼鏡やコンタクトレンズを購入します。レーシックやPRKなどの 屈折矯正手術 も、都市部の専門クリニックで受けることが可能です。
費用は検査・眼鏡・コンタクトレンズそれぞれで異なり、眼鏡は50〜300ユーロ程度、コンタクトレンズは種類や使用頻度によって月数十〜100ユーロ以上かかることがあります。民間医療保険の一部プランでは、視力検査や眼鏡・コンタクトレンズ購入の補助が受けられる場合があります。
スペインで視力矯正を行う際は、眼科医による定期検査を受け、必要に応じて自己負担で矯正具や手術を利用するのが一般的です。
妊娠と出産
スペインでは妊娠・出産に関する医療サービスは、SNSおよび民間医療の両方で受けることができます。SNSに加入している場合、妊婦健診や分娩は原則無料で提供されます。妊娠が確認されたら、まず 産科医(ginecólogo/obstetra)への初回診察を受け、妊婦手帳(cartilla de embarazo)が発行されます。この手帳で妊娠経過や検査結果を管理します。
定期健診では、血液検査、尿検査、超音波検査(エコー)、糖尿病スクリーニングなどが行われ、母体と胎児の健康状態が確認されます。出産は通常、総合病院や産科病棟での自然分娩が基本ですが、希望に応じて無痛分娩や帝王切開も可能です。出産後は母子ともに健康管理が行われ、退院後も保健所や小児科でフォローアップが受けられます。
民間病院を利用する場合は、より快適な個室や個別ケア、柔軟なサポートが受けられますが、費用は自己負担となります。妊娠中は定期的な健診を欠かさず、健康的な生活習慣を維持することが推奨されます。
水道水・食事
水道水
スペインの水道水は、基本的に「飲用可能」とされています。国の基準に沿って各自治体の水道事業体が管理しており、観光客でもそのまま飲むことができる地域が多いです。ただし、地域ごとに水質の特徴がかなり違うのがポイントです。
特に地中海沿岸(バルセロナ、バレンシアなど)や内陸部の一部では「硬水」が多く、石灰分(カルシウムやマグネシウム)が豊富に含まれています。一方で、マドリード周辺は山間部の水源が多く、ヨーロッパでも評判が高い「軟水」に近く比較的飲みやすい水です。
生野菜やカット野菜は十分に洗浄しましょう。水道水は地域によって硬水が多いですが通常は安全に飲めます。必要に応じてボトル水や浄水器の利用が安心です。
食事
スペインの食物は、地中海の豊かな気候に支えられ、多彩で健康的なのが特徴です。主食のパンや米は毎日の食卓に欠かせず、特にバレンシア地方のパエリアは世界的に有名です。オリーブとオリーブオイルは料理の基本で、サラダから煮込みまで幅広く活用されます。肉ではイベリコ豚やセラーノハムが国民食として親しまれ、魚介もタコ、イカ、アンチョビなど種類豊富で、沿岸部では新鮮な海の幸が楽しめます。野菜や豆類も豊富で、トマトやパプリカ、レンズ豆を使った家庭料理は栄養満点です。さらにマンチェゴチーズなど地域ごとのチーズ、オレンジやレモンなどの柑橘類も欠かせません。こうした食文化は「地中海食」として世界的に健康的と高く評価されています。






