イタリアの健康情報
国民健康保険制度とかかりつけ医
イタリアの国民健康保険制度/国民保健サービス(Servizio Sanitario Nazionale/SSN)は、外国人であっても、法的滞在許可を所有する長期滞在者や、国民保健サービス機関に登録して保険料を支払っている労働者であれば、適用されます。
イタリア国内にいる妊娠中の外国人は、滞在許可証がなくてもそのサービスを受けることができます。
SSNのサービスを受けるにはまず、居住区管轄の地域保健所(Aziende Sanitarie Locali/ASL)でかかりつけ医/家庭医(medico di base/medico di famiglia)に登録することが必要です。居住証明書をASLに提出することで、暫定的な納税番号(Codice Fiscale)が発行され国民保健サービスに登録することができます。
健康保険証は自動的には送付されませんが、ASLから健康保険証の識別番号が記載された証明書が発行されます。割り当てられた納税番号がわからなくても、ASLは外国人の個人情報をすべて入力することで、納税番号を取得できます。
国民保健サービスへの登録は通常、滞在許可と同じ期間有効です。有効期限が切れた時点で、管轄のASLに再度連絡し、登録を更新して新しい健康保険カード(tessera sanitaria)の発行を申請する必要があります。
専門医(Medico specialista)への紹介はすべてかかりつけ医が行い、個人が専門医に直接出向くことはできません。歯科と緊急以外はどんな症状でも、まず登録したかかりつけ医で診察を受ける必要があります。
SSN加入の登録方法
滞在許可書、納税番号、パスポート、住民票を持参し、ASLで必要書類に記入します。ASLが所有するリストからかかりつけ医を選択し登録します。住民登録されている場所と、居住する場所が異なる場合には、ASLは居住地域の保険医選択を期限付きで認めています。ASLが多市町村にまたがる場合もあるので、不明点はスタッフに尋ねましょう。
選択したかかりつけ医を変更する場合は、ASLに新しく選択したかかりつけ医を通知し、新しい健康保険証を受け取ります。一人のかかりつけ医が受け持つ患者数には限りがあるので、希望のかかりつけ医が選択できない場合は、リストの中から登録患者数に空きのある医師を選ぶことになります。14歳以下の場合は小児科医を決めます。後日、医療保険番号、かかりつけ医の名前、医院の所在地などが記入された保険証が発行されます。
健康手帳(libretto sanitario)と健康保険カード(tessera sanitaria) の違い
健康手帳はSSNが発行する証明書で医療保険番号やかかりつけ医の名前、医院の所在地などが記載されていて、診察の際に必要であるだけでなく、かかりつけ医の処方箋で薬局で薬を受け取る際も必要です。
一方、保健カードは財務省と国税庁が共同で、国民保健サービス機構の収入支出動向を掌握して国民保健サービス向上の目的で発行する証明カードで、納税登録番号や本人病歴などが記載されています。
緊急事態が起きてしまったら
救急診療病院(pronto soccorso ospedaliero)は、救急の時に利用する施設です。緊急時には公営の救急車(Pronto Soccorso Ambulanza)を救急サービス118番(あるいは警察113番)で呼ぶことができます。救急車は無料ですが、搬入先病院の指定はできません。電話での応対時は、症状、自分の名前と電話番号を明確に伝えると、オペレーターの指示で適切な救急サービスを受けることができます。ほとんどの救急車は緊急の心臓発作などに対応した機材を備えつけています。電話の呼出しに英語は通じない場合が多いのでイタリア語の分かる人に助けてもらうか、持病のある人は救急時に備えてあらかじめイタリア語の診断書を用意しておくとよいでしょう。また、自分に関係のありそうな医療単語を控えておくと、いざというときに役立ちます。
上記の他にも民間の救急車派遣会社がいくつか存在し、有料ですが搬入先病院を選べ、多くの場合、英語が通じます。
自分で動くことのできる人は最寄りの救急病院(Pronto Soccorso)へ行きましょう。イタリアでは、緊急の場合、保険の有無にかかわらず外国人でも治療を受ける権利があり、治療費は原則として無料です。
診察時間外に緊急に治療の必要があり、なおかつ救急病院に行くことができない場合は、緊急診療所(Continuita’ Assistenziale)に電話しましょう。医師による治療が必要で、診察に出向くことができない場合は、診察時間内に電話をすれば往診してくれます。
月~金 8:00 – 20:00、土曜日(または祝祭日の前日)の14:00から月曜日(または祝祭日の翌日の8:00)まで受け付けています。
薬局
処方薬は医師が必要と判断した場合のみ処方されます。薬局の多くは8:30 – 12:30、15:30 – 19:30の間で営業していますが、緊急時に備え、区域ごとに少なくとも1つの薬局は時間外営業をすることが義務付けられています。ただし夜間の医薬品の販売には医薬剤価格とは別に手数料がかかります。
薬局では薬以外にも衛生用品、化粧品、健康食品、糖尿病用食品、処方箋が必要なメガネなども販売しています。また一部の薬局では血圧検査や軽い症状の健康相談も行ってます。
専門医
かかりつけ医は診察後に精密検査や他の専門医の診断が必要と判断すると、専門医への紹介状を書いてくれるので、それを持って専門医のいる病院に行きます。
イタリアでは、公的医療制度において専門医の診察や診断検査の予約を取るために、ASL内や病院内に設けられているASLが管理するシングル予約センター(Centro Unico di Prenotazione /CUP)の予約窓口に行きます。
CUPでは、医療予約や診断検査などのを予約、キャンセル、または変更ができます。
予約をするには、以下の書類を提示する必要があります。
・かかりつけ医からの処方箋(prescrizione)
・国民健康保険証(tessera sanitaria)または外国人カード(tessera stranieri temporaneamente)
・滞在許可書(Permesso di soggiorno)
CUPへの予約方法
CUPの予約方法は地域によって異なります。お住まいの地域のCUP事務所にお問い合わせください。同じ地域でも都市によって規則が異なる場合があります。
基本的な予約方法
①CUPオフィス
病院やお住まいの市町村にあるASLにCUPオフィスがあります。一部の地域では、事前に予約をした場合のみ、CUPオフィスに直接行くことができます。また、専門医の診察や検査の予約は、ほとんどの薬局でもできます。実際、多くの薬局がFarmaCUPというサービスを導入しています。
②オンラインまたはアプリ
お住まいの地域のCUPウェブサイトや各地域が提供するアプリから予約が入れられます。
・CUPピエモンテ(CUP Piemonte)
・サルティーレSALUTILE(ロンバルディア/Lombardia州のCPUアプリ)
・MyCUPMarche(マルケ州のCPUアプリ)
・myCUP Reggio Emilia(ロマーニャ州レッジョ・エミリア県のCPUアプリ)
③電話
多くの場合、Numero verdeと呼ばれるフリーダイヤルで電話をかけることができます。
固定電話:800.638.638
携帯電話:02.99.95.99(有料)
月~土 08:00 – 20:00(日曜・祝日を除く)
キャンセルまたは変更
予約日時の都合が悪くなり変更を希望する場合は、予約日の少なくとも2日前までに上記と同じ方法でCUPに通知する必要があります。キャンセルの通知をしなかった場合はキャンセル料がかかる場合があります。
歯科治療
イタリアにおける全般的な歯科医療は、ほぼ民間歯科診療所で提供されます。民間歯科診療所は全国の約85%をカバーしています。
歯科医に登録する方法
歯科医は、イタリア歯科医師会(Associazione Nazionale Dentisti Italiani/ANDI)のウェブサイトで見つけることができます。地域や専門分野で歯科医を検索でき、各歯科医の連絡先情報も提供されています。登録には、書類への記入と国民健康保険証、外国人カード、滞在許可書などの個人情報の提供、そして健康保険に加入している場合はその情報の提供が必要です。
歯科費用
SSNは、0~14歳までの子ども、低所得者、重篤な疾患を持つ患者には無料または低額の医療および歯科治療を提供しています。ただし、矯正歯科や審美歯科などのより複雑な治療は対象外となる場合があります。SSNを通じて無料の歯科治療を受けるには、お住まいの地域の保健当局のシングル予約センターで予約する必要があります。SSNの対象外となる治療が必要な場合は、全額自己負担となります。
治療を受ける前に、治療費の見積もりを依頼することが重要です。
民間医療保険
SSNでカバーされない歯科治療は高額になりがちなので、民間医療保険の加入を検討しましょう。保障範囲は保険によって異なります。約款をよく読み、何がカバーされるのか、またどのような制限や制約があるのかを理解することが重要です。
視力矯正
イタリアでメガネやコンタクトレンズを購入する際には、眼鏡店(Ottico)で検眼医(Optometrista)が行う検眼(Optometria)を受ける必要があります。視力に問題を感じたときは眼鏡店へ。
SSNでは、白内障などの目に関する治療や手術を原則は無料で受けることができますが、かなり待つ覚悟が必要です。緊急の場合は、民間の病院へ行くことをお勧めします。
必要であれば、かかりつけ医が眼科の専門医に紹介状を書いてくれるでしょう。
その他の医療機関
フランス、ドイツ、英国に比べると代替医療の利用者は少ないものの、イタリアでも、ホメオパシー(Omeopatia)、植物療法(Fitoterapia)、鍼治療(Agopuntura)、カイロプラクティック(Chiropratica)、オステオパシー(Osteopatia)、インドやスリランカで生まれた世界最古の伝統医学アーユルヴェーダ(Ayurvedica)などの補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine/CAM)が利用できます。近年のイタリアではCAMがますます普及しており、イタリアの医療システムにおいて重要な役割を果たしています。
保健省、全国医師歯科医師会連合、全国生物学者会連合など、複数の政府機関が、CAMの実践基準を設定し、施術者が適切な研修を受け、免許を取得していることを保証する責任を負っています。
CAMの施術者は関係政府機関から免許を取得する必要があります。免許取得プロセスには、選択したCAMの形態における能力を証明することに加え、継続教育や倫理基準の遵守といったその他の要件を満たすことが含まれます。
ホメオパシー
高度に希釈された物質を用いて身体の自然治癒力を刺激するCAMの一種です。イタリアでは、ホメオパシーは広く実践されており、従来の医療と統合されることも少なくありません。
イタリアでホメオパシーを支援している団体の一つに、イタリアホメオパシー医師連盟(Federazione Italiana Medici Omeopati)があります。同連盟は1967年に設立された専門団体で、イタリアにおけるホメオパシーの実践の促進と規制に取り組み、ホメオパシー医師への研修と支援を提供しています。
鍼治療
日本でもよく知られる鍼治療もCAMの一種で、体の特定のツボに細い針を刺すことでエネルギーの流れを刺激し、治癒を促進します。
イタリアで鍼治療を支援している団体の一つに、イタリア鍼治療連盟(Federazione Italiana Agopuntura)があります。同連盟は1987年に設立された専門団体で、イタリアにおける鍼治療の普及と規制に取り組み、鍼灸師への研修と支援を提供しています。
オステオパシー
筋骨格系疾患、特に脊椎疾患の診断と治療に重点を置いたCAMの一種です。
イタリアでオステオパシーを支援している団体の一つに、イタリア・オステオパス登録協会(il Registro Italiano degli Osteopati)があります。同協会は1996年に設立された専門団体で、イタリアにおけるオステオパシーの実践の促進と規制に取り組み、オステオパスへの研修とサポートの提供しています。
妊娠と出産
イタリアで妊娠が判明した場合、まずはかかりつけ医に相談しましょう。SSNの加入者の出産費用は無料です。
かかりつけ医が紹介状を書いてくれるので、ASLのCUPで、産科医の初診と、各種血液・尿・超音波検査の予約を入れます。SSNまたはSSN提携病院か施設で該当の検査は無料です。
ただし、大都市では検査の予約枠がすぐに埋まってしまうことがあります。規定の検査期間を過ぎると検査料は有料となりますので、妊娠が判明したら早急にかかりつけ医に行きすぐに検査の予約を取りましょう。
上記の検査以外にも、産科医が必要と判断した場合は、追加の検査が無料で行われることがあります。妊婦が35歳以上の場合や、超音波検査で胎児に異常が見られる場合などは、羊水検査(amniocentesi)や絨毛検査(villocentesi)が無料で受けられます。
産科医の初診時には、通常、妊婦やパートナーとその家族の既在症や、病歴などをたずねられる他、内診、妊婦の体重測定と血圧検査、胎児の心拍の確認などが行われます。
産婦人科の元で行われる妊婦検診は、特に問題が無いようであれば、34週目までは毎月、34週目以降は毎週、受診することが可能です。
あらかじめ出産したい病院を決めておいて、臨月に入るタイミングでその病院での診察に切り替えます。詳しいエコー検査が再度行われ、その後は週1回ほど病院での診察が続きます。
希望者には、エコーと特殊な血液検査を使用した出生前診断のコンバインド検査(test combinato)を妊娠11週0日~13週6日の間に、血液を使った胎児の染色体の状態を調べるNIPT検査(Non Invasive Prenatal Test)を妊娠10週~18週の間に行ってくれます。検査費用は有料となる場合があります。
産休制度
基本的な産休期間は、出産予定日の2カ月前から出産後3カ月間の計5カ月間です。特別な医療認可がある場合、出産前の休みを1カ月に短縮し、出産後を4カ月に延ばすことも可能です。
産休制度の対象となるのは、正社員、パートタイム、派遣社員。特定の条件を満たせば自営業者やフリーランス、契約社員も一部給付対象になる場合があります。
出産や育児に関する国の保証
イタリアでは、出産・育児に関して国(主にINPS=社会保障機関)が中心となって、さまざまな保障・補助制度を提供しています。(2025年時点)
出産手当(Indennità di maternità)
通常は給与の80%が社会保障機関(Istituto Nazionale della Previdenza Sociale/INPS)から支給されます。一部の企業では、労使契約により企業側が残り20%を補填して「100%支給」にするケースもあります。
児童手当(Assegno unico e universale)
子どもが18歳になるまですべての家庭に支給されます(条件付きで21歳まで延長可能)。手当の額は所得や子どもの数によって変動します。第3子以降や障害を持つ子どもがいる場合は加算されます。
育児休暇手当(Indennità di congedo parentale)
育児休暇(Congedo parentale)は最大 6カ月間(両親合計で10カ月まで)取得可能です。双子以上や、早産、子どもが障害を持って生まれた場合などは特別な延長規定があります。出産後の手当は育児休暇中の最初の3カ月は給与の30%、その後は一定期間、条件により支給されます。
父親の休暇(Congedo di paternità obbligatorio)
父親には、出産時に10営業日の有給休暇を取ることが義務付けられています。出産予定日前後に取得でき、給与も100%支給されます。
保育園・ベビーシッター補助(Bonus asilo nido)
保育・在宅ケア手当は、「INPSが認可する公立または民間の保育所に通園している」あるいは「重度の慢性疾患のため在宅ケアを必要としている」0歳から3歳までの子どもを持つ家庭に対し、国が提供する経済的支援です。
水道水・食事
水道水
イタリアの水道水は安全基準を満たしていますが、カルシウムなどのミネラル成分が多い硬水のため、腎臓の機能が未発達な乳幼児や、おなかの調子を崩しやすい人は、ミネラル分の少ないミネラルウォーターが推奨されています。
硬水の欠点
シャワーや洗顔によって肌や髪がパサパサになることも。洗濯の際は、泡立ちにくく汚れが落ちにくいため、洗濯に時間がかかり服も痛みやすくなります。少しでもこれを防ぐために柔軟剤を使うとよいでしょう。
食物
食が重要な社会的役割を持っていた古代ローマ時代から続く長い歴史があり、地中海沿岸部で育まれた食材と料理法が多くの変遷を遂げながら現在まで受け継がれています。
南北に長い国土を持つため、地域によって気候や土地の特性が異なり、それが食文化の多様性を生んでいます。
地域ごとに異なる特色を持ち、豊かな味わいの世界を広げるイタリア料理に共通するのは、新鮮な食材を最大限に活かした料理法といえるでしょう。







