ドイツには数々の観光街道がありますが、中でも特に人気が高いのが「メルヘン街道」。グリム童話に登場する街や村をつなぐこの街道は、ハーナウ(Hanau)からブレーメン(Bremen)まで約600キロにわたって続き、 2025年に開設50周年を迎えました。

その道中に位置する「メルズンゲン(Melsungen)」は、 カッセル(Kassel)から南へ約30キロ、フルダ川沿いののどかな渓谷にたたずむ千年以上の歴史を持つ美しい街。あまり観光地化されていないという、メルヘン街道の中では希少な街ですが、実はグリム兄弟が童話の題材として扱った地域の一つであり、童話のモチーフとなった見どころが点在しています。

メルズンゲンの象徴的な存在は、市民のニックネームとしても親しまれている「バルテンヴェッツァー(Bartenwetzer)」と、グリム童話『ガチョウの少女』を思わせるガチョウを連れた女性「ゲンゼリーゼル(Gänseliesel)」の像です。

ガチョウの少女 Photo By Christina & Peter

ところで「バルテンヴェッツァー(ヒゲ研ぎ人)」とは一体何者でしょうか。中世、この街では、住民のほとんどが木こりとして生計を立てていました。彼らは毎朝仕事始めに、フルダ川に架かる石橋「バルテンヴェッツァー橋」の砂岩でヒゲ(中高ドイツ語*で斧の意)を研いでから、森に向かったそうです。今も橋の手すりに残る丸い窪みは当時の研磨の跡。木こりのブロンズ像も2体設置されています。

木こり (ヒゲ研ぎ人) のコスチュームを着たガイドさんとフルダ川遊覧 (後方は、今も研磨の跡が残る石橋) ©norikospitznagel

マルクト広場の中央で時の流れを優しく見守るようにたたずむのは、16世紀の面影を今に伝える、この街のランドマーク「市庁舎」です。大火で焼失した後、1562年から68年にかけて再建され、ドイツで最も美しい木組み様式の市庁舎の一つとされています。高さ29メートルの多角形の塔は、3層吹き抜けの構造を持ち、繊細な木組みに彩られています。その姿は、まるで遠い昔の夢の続きを語りかけてくるかのよう。残念ながら建物内部の参観はできませんが、一部のガイドツアーでは会議室を見学することができます。

市庁舎前のレストランでいただくアンズダケたっぷりのサラダ
©norikospitznagel

中央の塔では、街の守り神ともいえる「バルテンヴェッツァー」が、毎日正午と夕暮れの18時になると姿を現します。ぜひこの愛らしい仕掛けをお見逃しなく!

バルテンヴェッツァーの登場は毎日12時と18時の2回
©norikospitznagel

この街に静かにたたずむ400軒あまりの木組みの家は、それぞれに物語を秘め、石畳に影を落としながら、訪れる人の心に静かなときめきを残してくれます。メルズンゲンは、歩くたびに物語がはじまる場所。そんな空気が、そっと息づいています。

長く波乱に満ちた過去を今に伝える木組みの家が美しい市内
©norikospitznagel

さらに、フルダ川ではカヌーやペダルボートなどのウォータースポーツも楽しめ、自然の中でリフレッシュしたい人にもぴったりです。メルヘン街道の旅の途中で少し寄り道をして、歴史と自然、童話の世界が融合する知る人ぞ知るメルズンゲンに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

*中高ドイツ語:1050年から1350年頃にかけて使用されたドイツ語で、古高ドイツ語(約750~1050年)と初期新高ドイツ語(1350~1650年)の中間に位置するドイツ語の歴史における重要な段階とされています。

インフォメーション
文化観光インフォ・メルズンゲン(Kultur- & Tourist Info Melsunger Land e.V.)
Am Markt 5, 34212 Melsungen
Website: www.melsunger-land.de

投稿者プロフィール

シュピッツナーゲル典子
シュピッツナーゲル典子ドイツ在住ジャーナリスト
社会問題や医療、ビジネス、書籍業界などをテーマに紙・ウェブ媒体で取材・執筆。
ドイツ人キャリアウーマンの仕事を紹介するインタビュー連載を女性雑誌で継続中。丸善出版「ドイツ文化事典」ではドイツの出版文化執筆を担当。
各地を巡り、食・ワイン、その土地ならではの魅力を探訪しています。趣味は、料理・水泳・音楽鑑賞・美術館巡り。コロナ禍を機に再開したパン作りが、今では新たな楽みになっています。
https://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2025/07/2507_03-germany_01.jpghttps://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2025/07/2507_03-germany_01-150x150.jpgシュピッツナーゲル典子ドイツには数々の観光街道がありますが、中でも特に人気が高いのが「メルヘン街道」。グリム童話に登場する街や村をつなぐこの街道は、ハーナウ(Hanau)からブレーメン(Bremen)まで約600キロにわたって続き、 2025年に開設50周年を迎えました。 その道中に位置する「メルズンゲン(Melsungen)」は、 カッセル(Kassel)から南へ約30キロ、フルダ川沿いののどかな渓谷にたたずむ千年以上の歴史を持つ美しい街。あまり観光地化されていないという、メルヘン街道の中では希少な街ですが、実はグリム兄弟が童話の題材として扱った地域の一つであり、童話のモチーフとなった見どころが点在しています。 メルズンゲンの象徴的な存在は、市民のニックネームとしても親しまれている「バルテンヴェッツァー(Bartenwetzer)」と、グリム童話『ガチョウの少女』を思わせるガチョウを連れた女性「ゲンゼリーゼル(Gänseliesel)」の像です。 ガチョウの少女 Photo By Christina & Peter ところで「バルテンヴェッツァー(ヒゲ研ぎ人)」とは一体何者でしょうか。中世、この街では、住民のほとんどが木こりとして生計を立てていました。彼らは毎朝仕事始めに、フルダ川に架かる石橋「バルテンヴェッツァー橋」の砂岩でヒゲ(中高ドイツ語*で斧の意)を研いでから、森に向かったそうです。今も橋の手すりに残る丸い窪みは当時の研磨の跡。木こりのブロンズ像も2体設置されています。 木こり (ヒゲ研ぎ人) のコスチュームを着たガイドさんとフルダ川遊覧 (後方は、今も研磨の跡が残る石橋) ©norikospitznagel マルクト広場の中央で時の流れを優しく見守るようにたたずむのは、16世紀の面影を今に伝える、この街のランドマーク「市庁舎」です。大火で焼失した後、1562年から68年にかけて再建され、ドイツで最も美しい木組み様式の市庁舎の一つとされています。高さ29メートルの多角形の塔は、3層吹き抜けの構造を持ち、繊細な木組みに彩られています。その姿は、まるで遠い昔の夢の続きを語りかけてくるかのよう。残念ながら建物内部の参観はできませんが、一部のガイドツアーでは会議室を見学することができます。 市庁舎前のレストランでいただくアンズダケたっぷりのサラダ
©norikospitznagel 中央の塔では、街の守り神ともいえる「バルテンヴェッツァー」が、毎日正午と夕暮れの18時になると姿を現します。ぜひこの愛らしい仕掛けをお見逃しなく! バルテンヴェッツァーの登場は毎日12時と18時の2回
©norikospitznagel この街に静かにたたずむ400軒あまりの木組みの家は、それぞれに物語を秘め、石畳に影を落としながら、訪れる人の心に静かなときめきを残してくれます。メルズンゲンは、歩くたびに物語がはじまる場所。そんな空気が、そっと息づいています。 長く波乱に満ちた過去を今に伝える木組みの家が美しい市内
©norikospitznagel さらに、フルダ川ではカヌーやペダルボートなどのウォータースポーツも楽しめ、自然の中でリフレッシュしたい人にもぴったりです。メルヘン街道の旅の途中で少し寄り道をして、歴史と自然、童話の世界が融合する知る人ぞ知るメルズンゲンに立ち寄ってみてはいかがでしょうか。 *中高ドイツ語:1050年から1350年頃にかけて使用されたドイツ語で、古高ドイツ語(約750~1050年)と初期新高ドイツ語(1350~1650年)の中間に位置するドイツ語の歴史における重要な段階とされています。 インフォメーション 文化観光インフォ・メルズンゲン(Kultur- & Tourist Info Melsunger Land e.V.) Am Markt 5, 34212 Melsungen Website: www.melsunger-land.de