Vol.15 ヨーロッパの熱波
2026年6月下旬にヨーロッパを襲った記録的な熱波。この期間中、域内の複数の国で気温の観測史上最高記録が更新されたほか、ベルギー、イギリス、フランス、スペインなどによる推定では、通常の予測を上回る死者数(超過死亡)が発生したと報道されました。欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control/ECDC)と世界保健機関(World Health Organisation/WHO)が支援するヨーロッパの死亡統計監視機関「European Mortality Monitor/EuroMOMO」が公表したデータによると、死者の大半(9,000人超)は65歳以上の層で確認されたとのこと。

イギリスの専門家らが、気象データ、気候モデル、熱波に伴う超過死亡に関する研究結果を用いて算出したところ、5月と6月にイングランドとウェールズを襲った第一弾と第2弾の熱波により、合計で少なくとも2,700人以上が亡くなったと推定されました。これらの月は、イギリスを含む西ヨーロッパ全域で前例のない極端な熱波に見舞われ、しかも早い時期に起きたという点でも異例なことでした。
気候変動に関するイギリス政府への助言機関である気候変動委員会(Climate Change Committee/CCC)は、2050年までにイギリスの住宅の92%が暑すぎる状態になる可能性があると推定し、職場などにおける最高温度制限の設定、病院や学校などの公共施設への空調設備の整備を政府に勧告しました。この状況はヨーロッパ全域にも当てはまり、WHOはヨーロッパに対し、猛暑が引き起こす可能性のある「命に関わる数週間」に向けて、より万全な備えを行うよう警告しました。

あづいよー Image by Akanda Kilicarslan on Unsplash
しかし一方で、「2,700人以上が熱波のせいで亡くなった」という数字を懐疑的に捉える向きも。2,700という数字は、統計モデリングを用いて、過去数週間の気温や過去の暑い時期に見られた超過死亡のパターンに基づき、今回の熱波の間に発生した可能性のある死者数を推定したもので、実際の死者数は集計に含まれていないのだとか。
イギリスで初めて40℃を記録した2022年にも同様のことがありました。6月から8月にかけて、昼夜の平均気温が20℃を超えた5つの「暑熱期間」におけるイングランドとウェールズの死者数を測定したところ、これらの期間中の総死者数が(パンデミックの影響を受けた2020年を除く)過去5年間の平均を3,271人上回り、これは熱波が原因だと大きく報道されました。実際には、2022年の大半において、季節にかかわらず超過死亡数が通常よりもかなり高い水準で推移していたことを多くの専門家が指摘。当時は国中がパンデミックからの回復途上にあり、病院では緊急性の低い治療が遅れたり、救急医療体制に依然として混乱が生じたりしていたということもあり、熱波の期間中に記録された超過死亡のすべてを、単に気温上昇のせいにすることはできないのではという見方もあります。
夏季の気温の上昇は誰の目にも明らかですが、同時に、冬の極端な寒さの減少傾向が逆に人命を救っているという事実も見逃せない点の一つでしょう。

水分補給が大事!Image by GeorgiaLens from Pixabay
とはいえ、近年の地球は確実に温暖化してきており熱波に見舞われる頻度が増えていることは間違いありません。命を落とす人が急増すると盲目的に怯えるのではなく、我々がこの半世紀の間にしてきたように、正しい対処法を学ぶことが大切です。例えば、以前は暑い日に水分を補給することの重要性が今ほど認識されていませんでしたが、最近では学校の机の上に多くの生徒が水筒を置いています。また、多くの病院にエアコンが完備されるようになり、介護施設でも入居者の水分補給を徹底する体制が整っています。
WHOは、「国家レベルの熱と健康に関する行動計画(Heat-health Action Plans)」と呼ばれる、気温急上昇時の健康リスクに対処するための計画を策定することを推奨しています。この計画では、気象に関する早期警戒、リスクの高い集団への働きかけ、そして保健、労働衛生、社会福祉、住宅、都市計画の各当局間の連携などが盛り込まれるべきだとしています。熱波が到来する前に明確な体制を整えておくことが、管理下で事態の対応ができるか、あるいは事後対応に追われるかという、いざというときの決定的な違いになります。イタリアの死亡者監視システム、スペインのメディア広報戦略、オーストリアの改定された熱波対策計画といった取り組みはWHOでも高く評価されています。すでに存在しているこのような有効ツールを活用するのもよいでしょう。
欧州委員会(European Commission/EC)の気候変動総局(Climate Action)の提唱
気候変動に強い建物、パッシブクーリング(受動的冷却)、緑豊かな都市づくり、自然を活用した解決策、熱中症対策計画、早期警戒システムなどは、極端な高温による影響を軽減するのに役立ちます。
気温が極端に上昇したら、熱中症などの健康被害から人々を守り、健康リスクを低減するのにエアコンが役立ちます。特に、学校、病院、高齢者介護施設など、暑さの影響を受けやすい人々が集まる場所にとって、エアコンの利用は大きなメリットがあります。しかし、冷房需要が増加すれば電力消費量が増え、温室効果ガスの排出量増加につながる可能性もあります。機器の規模や設置・運用コストを抑えるために他の緩和策と組み合わせ、よりよい都市計画など、システム的な対策で補完することが望まれます。また、日射遮蔽(シェーディング)、断熱、換気といった対策を講じることで、状況を改善し、室温を快適なレベルに保てる場合もあります。

都市の気温を下げるためのもっとも効果的な手段の一つはすでに自然の中に存在しています。樹木、公園、湿地といった「自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)」は、日陰を作るのみならず、植物が水蒸気を大気中に放出する自然のプロセスである「蒸散」を通じて、周囲の空気を冷却する効果をもたらします。また、今すぐに結果を出せることではありませんが、熱を吸収しやすいコンクリートやアスファルトの表面を減らし、自然を取り入れることで、極端な暑さに対する都市の回復力(レジリエンス)を高めることができるような都市設計を進めることが必至でしょう。
植樹の増加、緑地の拡大、屋上や壁面の緑化、水辺の整備、光を反射しやすい明るい色の素材の採用、そして自然に涼しさを保てる建物の設計といったことが、熱波の際の気温低下に役立ちます。同時に、大気質の改善、生物多様性の保全、洪水リスクの低減をもたらし、より健康的で住みやすい都市の実現にも寄与するでしょう。

過去には大変稀であった極端な暑さは、ヨーロッパに住む人々の暮らしや働き方、都市のあり方に影響を及ぼしています。科学的知見の理解、リスクの認識、そして技術と「自然を活用した解決策」の組み合わせが、人々の安全を守る鍵となるでしょう。

対策を取らないと、夏は永遠にこの状態のままに!
参照ウェブサイト:Euro News, My Europe、Daily Mail Features
https://living-in-eu.com/health/202607_vol15_heatwavehttps://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2026/07/15_2607_heatwave_00.jpghttps://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2026/07/15_2607_heatwave_00-150x150.jpg2026年6月下旬にヨーロッパを襲った記録的な熱波。この期間中、域内の複数の国で気温の観測史上最高記録が更新されたほか、ベルギー、イギリス、フランス、スペインなどによる推定では、通常の予測を上回る死者数(超過死亡)が発生したと報道されました。欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control/ECDC)と世界保健機関(World Health Organisation/WHO)が支援するヨーロッパの死亡統計監視機関「European Mortality Monitor/EuroMOMO」が公表したデータによると、死者の大半(9,000人超)は65歳以上の層で確認されたとのこと。 イギリスの専門家らが、気象データ、気候モデル、熱波に伴う超過死亡に関する研究結果を用いて算出したところ、5月と6月にイングランドとウェールズを襲った第一弾と第2弾の熱波により、合計で少なくとも2,700人以上が亡くなったと推定されました。これらの月は、イギリスを含む西ヨーロッパ全域で前例のない極端な熱波に見舞われ、しかも早い時期に起きたという点でも異例なことでした。 気候変動に関するイギリス政府への助言機関である気候変動委員会(Climate Change Committee/CCC)は、2050年までにイギリスの住宅の92%が暑すぎる状態になる可能性があると推定し、職場などにおける最高温度制限の設定、病院や学校などの公共施設への空調設備の整備を政府に勧告しました。この状況はヨーロッパ全域にも当てはまり、WHOはヨーロッパに対し、猛暑が引き起こす可能性のある「命に関わる数週間」に向けて、より万全な備えを行うよう警告しました。 あづいよー Image by Akanda Kilicarslan on Unsplash しかし一方で、「2,700人以上が熱波のせいで亡くなった」という数字を懐疑的に捉える向きも。2,700という数字は、統計モデリングを用いて、過去数週間の気温や過去の暑い時期に見られた超過死亡のパターンに基づき、今回の熱波の間に発生した可能性のある死者数を推定したもので、実際の死者数は集計に含まれていないのだとか。 イギリスで初めて40℃を記録した2022年にも同様のことがありました。6月から8月にかけて、昼夜の平均気温が20℃を超えた5つの「暑熱期間」におけるイングランドとウェールズの死者数を測定したところ、これらの期間中の総死者数が(パンデミックの影響を受けた2020年を除く)過去5年間の平均を3,271人上回り、これは熱波が原因だと大きく報道されました。実際には、2022年の大半において、季節にかかわらず超過死亡数が通常よりもかなり高い水準で推移していたことを多くの専門家が指摘。当時は国中がパンデミックからの回復途上にあり、病院では緊急性の低い治療が遅れたり、救急医療体制に依然として混乱が生じたりしていたということもあり、熱波の期間中に記録された超過死亡のすべてを、単に気温上昇のせいにすることはできないのではという見方もあります。 夏季の気温の上昇は誰の目にも明らかですが、同時に、冬の極端な寒さの減少傾向が逆に人命を救っているという事実も見逃せない点の一つでしょう。 水分補給が大事!Image by GeorgiaLens from Pixabay とはいえ、近年の地球は確実に温暖化してきており熱波に見舞われる頻度が増えていることは間違いありません。命を落とす人が急増すると盲目的に怯えるのではなく、我々がこの半世紀の間にしてきたように、正しい対処法を学ぶことが大切です。例えば、以前は暑い日に水分を補給することの重要性が今ほど認識されていませんでしたが、最近では学校の机の上に多くの生徒が水筒を置いています。また、多くの病院にエアコンが完備されるようになり、介護施設でも入居者の水分補給を徹底する体制が整っています。 WHOは、「国家レベルの熱と健康に関する行動計画(Heat-health Action Plans)」と呼ばれる、気温急上昇時の健康リスクに対処するための計画を策定することを推奨しています。この計画では、気象に関する早期警戒、リスクの高い集団への働きかけ、そして保健、労働衛生、社会福祉、住宅、都市計画の各当局間の連携などが盛り込まれるべきだとしています。熱波が到来する前に明確な体制を整えておくことが、管理下で事態の対応ができるか、あるいは事後対応に追われるかという、いざというときの決定的な違いになります。イタリアの死亡者監視システム、スペインのメディア広報戦略、オーストリアの改定された熱波対策計画といった取り組みはWHOでも高く評価されています。すでに存在しているこのような有効ツールを活用するのもよいでしょう。 欧州委員会(European Commission/EC)の気候変動総局(Climate Action)の提唱 気候変動に強い建物、パッシブクーリング(受動的冷却)、緑豊かな都市づくり、自然を活用した解決策、熱中症対策計画、早期警戒システムなどは、極端な高温による影響を軽減するのに役立ちます。 気温が極端に上昇したら、熱中症などの健康被害から人々を守り、健康リスクを低減するのにエアコンが役立ちます。特に、学校、病院、高齢者介護施設など、暑さの影響を受けやすい人々が集まる場所にとって、エアコンの利用は大きなメリットがあります。しかし、冷房需要が増加すれば電力消費量が増え、温室効果ガスの排出量増加につながる可能性もあります。機器の規模や設置・運用コストを抑えるために他の緩和策と組み合わせ、よりよい都市計画など、システム的な対策で補完することが望まれます。また、日射遮蔽(シェーディング)、断熱、換気といった対策を講じることで、状況を改善し、室温を快適なレベルに保てる場合もあります。 都市の気温を下げるためのもっとも効果的な手段の一つはすでに自然の中に存在しています。樹木、公園、湿地といった「自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)」は、日陰を作るのみならず、植物が水蒸気を大気中に放出する自然のプロセスである「蒸散」を通じて、周囲の空気を冷却する効果をもたらします。また、今すぐに結果を出せることではありませんが、熱を吸収しやすいコンクリートやアスファルトの表面を減らし、自然を取り入れることで、極端な暑さに対する都市の回復力(レジリエンス)を高めることができるような都市設計を進めることが必至でしょう。 植樹の増加、緑地の拡大、屋上や壁面の緑化、水辺の整備、光を反射しやすい明るい色の素材の採用、そして自然に涼しさを保てる建物の設計といったことが、熱波の際の気温低下に役立ちます。同時に、大気質の改善、生物多様性の保全、洪水リスクの低減をもたらし、より健康的で住みやすい都市の実現にも寄与するでしょう。 過去には大変稀であった極端な暑さは、ヨーロッパに住む人々の暮らしや働き方、都市のあり方に影響を及ぼしています。科学的知見の理解、リスクの認識、そして技術と「自然を活用した解決策」の組み合わせが、人々の安全を守る鍵となるでしょう。 対策を取らないと、夏は永遠にこの状態のままに! 参照ウェブサイト:Euro News, My Europe、Daily Mail FeaturesLiE 編集部LiE 編集部 toyo@a-concept.co.ukAdministrator欧州移住の正解が見つかる | Living in Europe - 住まい・教育・医療の総合ポータル


