
Timber over Tinder
Timber over Tinder、直訳すれば「デートアプリよりも木」ということになりますが、ここでいう「木」とは、ドイツのハンブルクから約100キロ北東に位置するドダワーの森に立つ、樹齢500年以上の「花婿の樫(Bräutigsmseiche)」のこと。英BBCオンラインの記事の中で、この樫の木は「世界でもっともロマンチックな郵便箱」と称されました。
歴史ある縁結びの樫の木
高さ約25メートルというこの花婿の樫には、1892年から郵便受けとして使われている節穴があります。そこには正式な郵便番号が割り当てられ、専属の郵便配達員もいます。キューピッド役を担う配達員は、1年で1,000通ほどの手紙を届けるのですが、この節穴郵便受けは地面から3メートルほどの高さにあるため、配達のたびにはしごを使わなければなりません。
地元の郵便局によれば、1890年頃、親に交際を反対された森林管理人の娘とライプツィヒのチョコレート職人が、お互いに宛てたラブレターをこっそりこの節穴に残したことが発端だそう。最終的に2人は親の許しを得て、1891年(1982年という説もあり)に、この木の下でめでたく結婚することができました。確かに縁起の良いエピソードですね。彼らのハッピーエンディングにあやかって、噂を聞きつけたドイツの人たちが幸せを求めてこの木を利用したのも頷けます。
東西ドイツが統合される以前は、見知らぬ相手に送るラブレターのみならず、東ドイツ人が西ドイツ人に「どんな車があるのか」、「どんな音楽が聞けるのか」など、西側の生活ぶりを伺う内容のものもあったそうです。

Image by Brayan Hernando Guzman Cortez from Pixabay
花婿の樫のシステムとおまじない
昨今流行りのマッチングアプリと違って、森の中の木に送られた手紙はどうやって運命の相手を見つけるのか?と疑問に思う方もいるかもしれません。実は、ここを訪れた人は誰でも郵便受けの中の手紙を開封して読むことができ、差出人と気が合いそうだ、文通をしたい、と思ったら返事をするというシステムになっています。ただし、手紙を読んでも返事はしない場合には、その手紙は必ず元通り郵便受けに戻さないとなりません。それが唯一のルールとなっています。
見知らぬ人との出会いを提供するだけでなく、すでに心を寄せる人がいる女性には恋が成就するというおまじないもあります。満月の夜、好きな人のことを思い浮かべながら、クスクスと照れ笑いをしたり喋ったりすることなく静かに花婿の樫の周りを3周歩くと、1年以内に結婚ができるというのですが、さて、試してみる価値はあるでしょうか?

Photo by alleksana
成功例の数々
1世紀以上にわたって独身者同士の縁結びをしてきた花婿の樫ですが、結婚にまで至ったカップルは100組を超えるとのこと!そんな成功例のいくつかをご紹介しましょう。
① 1958年のこと。若い兵士ペーターが節穴郵便受けに手を入れてみると、何通かの封筒にその手が触れました。その中から一通を取り出して封を開けてみたところ、その手紙には名前と住所しか書いてありません。これも運命と思ったペーターは送り主のマリタに手紙を出しました。実は手紙を投函したのはマリタではなく、恥ずかしがり屋の彼女に代わってお節介を焼いた友人たちだったのです。ペーターとマリタは実際に会うことを決めるまでの1年間、文通を続けたそう。そして1961年にめでたく結婚式を挙げ、幸せに暮らしたそうです。
②1988年、東ドイツに住む19歳の女性クローディアが文通相手を求めて花婿の樫に送った手紙を、西ドイツの若い農夫フリードリッヒが見つけ返事を送りました。手紙はやがて40通になるまで続き、2人は会うことが叶わぬまま恋に落ちました。ベルリンの壁が崩壊した年に初めて実際に顔を合わせた2人は、1990年に結婚しました。
③1989年、この花婿の樫について特集を組んだ番組がドイツで放送されました。番組には花婿の樫の郵便配達員を続けているマルテンス氏も登場。その中で「この木の下であなた自身は恋に落ちたことがありますか?」と聞かれた彼は、正直に「ない」と答えました。数日後いつものようにはしごを上って手紙を届けた彼は、郵便受けの中に自分宛の手書きの手紙を見つけたのです!
手紙には「私はあなたに好意を持っています。一度お会いしたいです」とありました。マルテンス氏はドギマギしながらもすぐに彼女に電話をし、会う約束をしました。1994年に2人は結婚し、披露宴は花婿の樫の下で行われました。このときの様子は「今年最高の結婚式」というタイトルで地元の新聞にも掲載されました。夫妻は今も幸せな結婚生活を送っており、マルテンス氏はそのときの手紙を今も大事に保管しているそうです。

Image by wendy CORNIQUET from Pixabay
花婿の樫にも訪れた幸せ、そして別れ
長きにわたり人々を結びつけてきた花婿の樫の木自身も、500キロメートルほど離れたデュッセルドルフ近郊の樹齢200年の栗の木と婚姻関係を結びました。6年間の “結婚生活” を送ったあと、残念ながら栗の木は老齢のため伐採され、花婿の樫は未亡人となってしまいました。
マルテンス氏が郵便配達員として働いていた当時は花婿の樫も強く健康そのものでしたが、その後樹木医が真菌感染を発見。感染拡大を防ぐために枝を何本か切り落とさなければなりませんでした。同じ時期にマルテンス氏も白血病の診断を受け、自分と花婿の樫には特別の繋がりがあるのかもしれないと感じたそうです。

Photo by Aaron Burden on Unsplash
誰もが送ることができるラブレター
今では世界中からさまざまな言語で手紙が届くようになったという花婿の樫。もしもあなたが運命の出会いを求めているのなら、久しぶりに紙とペンを使ってラブレターを送ってみてはいかがでしょうか。
花婿の木の住所:Bräutigamseiche, Dodauer Forst, 23701 Eutin, Germany
https://living-in-eu.com/tidbit/timber-over-tinderhttps://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2025/10/08_2509_top.jpghttps://living-in-eu.com/wp-content/uploads/2025/10/08_2509_top-150x150.jpgTimber over Tinder、直訳すれば「デートアプリよりも木」ということになりますが、ここでいう「木」とは、ドイツのハンブルクから約100キロ北東に位置するドダワーの森に立つ、樹齢500年以上の「花婿の樫(Bräutigsmseiche)」のこと。英BBCオンラインの記事の中で、この樫の木は「世界でもっともロマンチックな郵便箱」と称されました。 歴史ある縁結びの樫の木 高さ約25メートルというこの花婿の樫には、1892年から郵便受けとして使われている節穴があります。そこには正式な郵便番号が割り当てられ、専属の郵便配達員もいます。キューピッド役を担う配達員は、1年で1,000通ほどの手紙を届けるのですが、この節穴郵便受けは地面から3メートルほどの高さにあるため、配達のたびにはしごを使わなければなりません。 地元の郵便局によれば、1890年頃、親に交際を反対された森林管理人の娘とライプツィヒのチョコレート職人が、お互いに宛てたラブレターをこっそりこの節穴に残したことが発端だそう。最終的に2人は親の許しを得て、1891年(1982年という説もあり)に、この木の下でめでたく結婚することができました。確かに縁起の良いエピソードですね。彼らのハッピーエンディングにあやかって、噂を聞きつけたドイツの人たちが幸せを求めてこの木を利用したのも頷けます。 東西ドイツが統合される以前は、見知らぬ相手に送るラブレターのみならず、東ドイツ人が西ドイツ人に「どんな車があるのか」、「どんな音楽が聞けるのか」など、西側の生活ぶりを伺う内容のものもあったそうです。 Image by Brayan Hernando Guzman Cortez from Pixabay 花婿の樫のシステムとおまじない 昨今流行りのマッチングアプリと違って、森の中の木に送られた手紙はどうやって運命の相手を見つけるのか?と疑問に思う方もいるかもしれません。実は、ここを訪れた人は誰でも郵便受けの中の手紙を開封して読むことができ、差出人と気が合いそうだ、文通をしたい、と思ったら返事をするというシステムになっています。ただし、手紙を読んでも返事はしない場合には、その手紙は必ず元通り郵便受けに戻さないとなりません。それが唯一のルールとなっています。 見知らぬ人との出会いを提供するだけでなく、すでに心を寄せる人がいる女性には恋が成就するというおまじないもあります。満月の夜、好きな人のことを思い浮かべながら、クスクスと照れ笑いをしたり喋ったりすることなく静かに花婿の樫の周りを3周歩くと、1年以内に結婚ができるというのですが、さて、試してみる価値はあるでしょうか? Photo by alleksana 成功例の数々 1世紀以上にわたって独身者同士の縁結びをしてきた花婿の樫ですが、結婚にまで至ったカップルは100組を超えるとのこと!そんな成功例のいくつかをご紹介しましょう。 ① 1958年のこと。若い兵士ペーターが節穴郵便受けに手を入れてみると、何通かの封筒にその手が触れました。その中から一通を取り出して封を開けてみたところ、その手紙には名前と住所しか書いてありません。これも運命と思ったペーターは送り主のマリタに手紙を出しました。実は手紙を投函したのはマリタではなく、恥ずかしがり屋の彼女に代わってお節介を焼いた友人たちだったのです。ペーターとマリタは実際に会うことを決めるまでの1年間、文通を続けたそう。そして1961年にめでたく結婚式を挙げ、幸せに暮らしたそうです。 ②1988年、東ドイツに住む19歳の女性クローディアが文通相手を求めて花婿の樫に送った手紙を、西ドイツの若い農夫フリードリッヒが見つけ返事を送りました。手紙はやがて40通になるまで続き、2人は会うことが叶わぬまま恋に落ちました。ベルリンの壁が崩壊した年に初めて実際に顔を合わせた2人は、1990年に結婚しました。 ③1989年、この花婿の樫について特集を組んだ番組がドイツで放送されました。番組には花婿の樫の郵便配達員を続けているマルテンス氏も登場。その中で「この木の下であなた自身は恋に落ちたことがありますか?」と聞かれた彼は、正直に「ない」と答えました。数日後いつものようにはしごを上って手紙を届けた彼は、郵便受けの中に自分宛の手書きの手紙を見つけたのです! 手紙には「私はあなたに好意を持っています。一度お会いしたいです」とありました。マルテンス氏はドギマギしながらもすぐに彼女に電話をし、会う約束をしました。1994年に2人は結婚し、披露宴は花婿の樫の下で行われました。このときの様子は「今年最高の結婚式」というタイトルで地元の新聞にも掲載されました。夫妻は今も幸せな結婚生活を送っており、マルテンス氏はそのときの手紙を今も大事に保管しているそうです。 Image by wendy CORNIQUET from Pixabay 花婿の樫にも訪れた幸せ、そして別れ 長きにわたり人々を結びつけてきた花婿の樫の木自身も、500キロメートルほど離れたデュッセルドルフ近郊の樹齢200年の栗の木と婚姻関係を結びました。6年間の “結婚生活” を送ったあと、残念ながら栗の木は老齢のため伐採され、花婿の樫は未亡人となってしまいました。 マルテンス氏が郵便配達員として働いていた当時は花婿の樫も強く健康そのものでしたが、その後樹木医が真菌感染を発見。感染拡大を防ぐために枝を何本か切り落とさなければなりませんでした。同じ時期にマルテンス氏も白血病の診断を受け、自分と花婿の樫には特別の繋がりがあるのかもしれないと感じたそうです。 Photo by Aaron Burden on Unsplash 誰もが送ることができるラブレター 今では世界中からさまざまな言語で手紙が届くようになったという花婿の樫。もしもあなたが運命の出会いを求めているのなら、久しぶりに紙とペンを使ってラブレターを送ってみてはいかがでしょうか。 花婿の木の住所:Bräutigamseiche, Dodauer Forst, 23701 Eutin, GermanyLiE 編集部LiE 編集部 toyo@a-concept.co.ukAdministratorLiving in Europe


